旅の思い出 vo.l 23 ~建築を巡る旅 その3 岐阜の建築を巡る~

 建築を学びはじめた建築学生や若い方で設計の仕事を志ししている方に見学を薦めたい建築の一つとして、岐阜県の各務原市那加扇平にある「瞑想の森」市営斎場(設計:伊東豊雄氏)がある。2006年に竣工し、今も美しい曲面シェル構造の鉄筋コンクリートの屋根の佇まいが訪れる人を魅了しつづけている。

撮影:中尾 

自然光の入り方を考えると、春の桜の咲く季節も良いと思われましたが、秋~冬至の間が自然光が低い高度で建物の開口部から奥まで入り込む、見学には良い季節なのではと考え、建築関係の全国大会で名古屋を訪れた際に少し足を延ばして、名古屋からJRとタクシーを乗り継いで建築視察をしてきました。

 曲面の天井は各所室の用途に合わせて適度に天井高さに変化をつけていて、設備的なものが設けられる「炉室」あたりが最も高く、「待合室」の畳の和室は少し低め、洋室は少し高めといったバランスでした。

写真:中尾

構造的には炉室のあたりを耐力壁として計画されていて、それ以外は壁と天井は切り離され、ファサード面は鉛直加重だけ柱で支えた構造計画のようでした。柱は雨水管を兼ねていて、柱の上部に水勾配が集まるように設計されていました。ため池の整備の後に建物は工事されたということもあり、雨水は池に放流されていました。全体計画としては敷地は池の脇の敷地に配置計画され、背面の山並みと景観的な連続性を帯びた造形となっていて、更に水面で逆さ富士のように対面から見ると水平ラインに反射した姿が印象的でした。

管理事務所で見せて頂いた見学可能エリア(黄色の部分)と間取り

朝以外は撮影ができないので、想像ですが、夕方は内部の照明が外に漏れだし、造形のシルエットが水面に反射しさらに印象的な姿となっていることは昼間の内部の様子を伺って容易に想像することができました。

 非常用照明以外は、天井に照明はなく、すべて間接照明。曲面を多用する建築家は過去も現代も多く、日本人では村野藤吾、外国人ではヨーン・ウォッツン、現代ではSANAA、フランクオーゲイリーやザハ・ハディッド等が良く知られていますが、「瞑想の森」は伊藤氏の作品の中では小規模ですが造形的な作品の中では代表作の一つではないかと私は思っていたので、今回の機会に足を運んで空間を実際に体感してみました。本物は細部にもいろいろな発見があるので、足を運んで見るといろいろ発見がありました。同じ伊東氏の作品ではこの当時、曲面の作品では「ぐりんぐりん」(2005年竣工)が有名ですが、こちらは2006年に建物がある福岡市のアイランドシティーを訪れたときの投稿になります。https://atelierbau.exblog.jp/3339580/

 最近見た、村野氏の谷村美術館は内部で曲面の連続性が多様に計画され光の取り入れ方に工夫がありましたが、仏像の展示物(非公開)があったこともあり、開口部は限られていて洞窟のような建築でしたが、今回の「瞑想の森」は対照的に開放的で、景色を切り取りながら、まだ、亡くなった方の死を理解できない状態で訪れる人々が故人を忍ぶことに集中できるように柔らかく人を包む非常にデリケートで豊かな設計でした。床から壁に素材を斜めに連続させる方法論は村野さんのオマージュのように感じましたが、改めて伊東氏の作風のバリエーションの豊かさを感じました。ただ、伊東氏だけではなく、当然、当時の伊東事務所の若い優秀な設計スタッフ担当者の皆さんの力量、構造設計者の佐々木睦朗氏の構造解析能力等、総合力の発揮された作品なのだと思います。愛媛県今治市大三島に伊東豊雄さんのミュージアム(TIMA)があるので、愛媛の方で建築が好きな方は機会がありましたら、是非訪れて頂きたいと思っています。建築の設計を仕事としてしてみたいと思っている学生の方には自分が見てみたいと思う建築は実際に足を運んで見てみるといろいろな学びがあると思いますので、若い方には時間がある時に自分の価値観で建築巡礼の「旅」をお薦めします・・・・つづく。

注)「瞑想の森」葬祭場は午前9時~9時半までの30分のみ見学可。(但し、3人以上は事前に予約が必要)

※撮影写真は許可済

床と壁の取り合い部:素材:トラバーチン :撮影 :中尾

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